アンチテーゼ #3



God only knows where we go.
僕らがどこへ行くのか、それは神のみぞ知る



中三の二月から始まった関係は今月でもう二年と七ヶ月目を数える。その間変わったことなんて一つもなくて。捕食する者とされる者。終わりのないオニごっこ。
「何でこんなコトするの?」
薄暗い体育倉庫の中。マットの上に押し倒されながら聞いた問いに、返ってきたのは侮蔑交じりの囁きだった。
「嫌いだからに決まってんだろ」
ああ、そういうものなんだ? あの頃は人に嫌われるのなんて何とも思ってなかったから、ただフツウにへーえって感心してた。万人に好かれようなんて思ってもいなかったし、誰かに媚びてまで得られるものに価値なんてないと思ってたから。それはいまでもそう思ってるよ。ただ好きでもないヤツに嫌われたところで痛くも痒くもないんだなぁって妙に実感してた。だからアイツの云ってた理由だって気にならなかったし、何度抱かれても傷つきもしなかった。興味があったのは倉貫にじゃなくてセックスの方だったから。べつにそれでいいと思ってた。ちょうど一年と七ヶ月前まではね。
「ハル、おまえ痩せたんじゃねえ?」
「え? そんなことないよ」
「いや、ゼッテー痩せたって」
薄く開いた扉の向こう。昨日の放課後、自分をひどく乱暴に抱いた腕が今日は優しく瀬戸内の肩を撫ぜていた。労わるような仕草に瀬戸内が「そうかなぁ」と一人ごちる。数秒後、目の合った瀬戸内がクスリと口元を笑わせた。
しどけなく乱れた服。薄暗い準備室の中で瀬戸内の白い肌が妙に印象的だった。耳打ちされた倉貫が視線を上げる。あの不遜な眼差しに射抜かれる前に南は廊下を駆け出していた。
あの日からずっと痛んでる胸の内。原因不明のソレに侵食されてく日々が煩わしくて南は水曜を疎むようになった。倉貫の顔を見るだけでズキズキと痛みを訴える胸。視線に捉われただけで、触れられただけで壊れそうになる涙腺。悪いビョーキにでもかかったのかと思った。月日を重ねるごとに悪化していく症状。不治の病。その病の名を知った時、南は世界が終わったような気がした。
倉貫が出て行った後の旧校舎でほんの少しだけ泣いてから、南は制服に腕を通した。ふいに床の上で携帯が耳障りな音を立てる。
「…なに」
「どこにいる?」
切敷の無愛想な声に目元を拭いながら答える。そういえばいま何時だろう?
「ガッコウ」
「の何処かって話」
「んー、どっか」
「とりあえず一回戻れよ」
「えー、じゃあ王子サマ待遇してくれる?」
「…いつもじゃねーか」
云いながらフラつく足で物置を出る。埒の明かない話を故意に続けながら、大回りして昇降口に向かうとその入り口に立ってる長身の影が見えた。牛乳パックを片手に佇んでいるその姿に思わず苦笑する。ホント律儀だよね、そーいうトコ。
「何ソレ、もしかして飲ませようとか思ってる?」
「人の好意を無にするなよ」
「それって悪意とどう違うワケ?」
そこまで云ったところで伸びてきた手が南の携帯の通話ボタンを切った。何があったかなんて切敷は聞かない。だから南も答えない。無言で渡された牛乳パックを眇めた視線で眺めていると「口移しされたいのか」と淡々と脅された。これが脅しで済まないから切敷はコワイ。タカをくくるとトンデモない目に遭うのだ。
「飲ーみーまーすー」
「タイ、曲がってんぞ」
「ん。直して」
刺したストローを咥えながら軽く顎先を反らせる。切敷の手がタイを結び直すのを眺めながら、あ見られたかな…とちょっと思う。さっき最後、首筋に噛み付かれたから。もしかしたら歯型が残ってたかもしれない。でも切敷は何も云わない。聞いても返る答えがないコトをコイツはいつ覚ったんだろう?
「クラスの方は?」
「順調らしいぞ」
「委員会は?」
「相変わらず観月の独壇場」
「ふうん」
オレンジ頭の根明な独裁者。ヤツに任せておけばどんな紆余曲折を経ようとも最終的にはイチバンうまくいく。その認識をいまや学校中の人間が経験則として共有していた。行事ごとに血を滾らせる人間の脳内なんて自分には理解不能だけど。兎にも角にも。
「ヒトにはほんと向き不向きがあるよねェ」
「少なくともオマエは委員向きじゃねーな」
「あーそうみたいだね」
「…………」
まるでヒトゴトじみた感慨に突っ込みを入れるかどうか、親友が一瞬迷ったことなど知る由もなく。南はニッと口元を笑わせるとまたストローを咥えた。切敷の手が南の猫っ毛をクシャリと掻き回す。
「戻るぞ」
「ん」
牛乳パック片手に、前を行くシャツの裾をつかんで昇降口をくぐる。ごったがえす購買前を通り過ぎ三階に続く階段を上ろうとしたその時、慌てたように購買から出てきた誰かが南の名前を呼んだ。
「ナミ先輩っ」
「ん?」
ストローを口の端に据えたまま振り返る。一つ下の宮島が小走りにこちらに近づいてくるのが見えた。どうしたんだろう? いつもたおやかな笑顔を絶やさない後輩が、今日はいつになく真剣な表情を浮かべている。右足を三段目にかけたところで歩を止めると、南は宮島のスラリとした輪郭が階段下まで追いついてくるのを待った。
「どーしたん?」
「切敷先輩、ナミ先輩ちょっとお借りしてもいいですか?」
「そこで俺の了承を得る理由が解らねーな」
「じゃあいいんですね?」
「少なくとも俺の出る幕じゃない」
いつになく真剣な表情の遣り取りに多少面食らいつつも、南は軽く首を傾げるといつも軽口を叩き合ってる親しい後輩の顔を覗き込んだ。
「なに、俺ってば愛の告白とかされちゃうワケ? わーどうしよう、ちょっとドキドキー」
ケラケラと笑いながらストローを咥え直した南の手首に宮島の手がすっと重ねられた。その熱い感触に思わず引きかけた手をグッとつかまれる。反射的に切敷を見ると眼鏡の奥の視線がドウスル? と問いかけていた。助けて欲しけりゃ関与しないこともないけどな。すべてはオマエ次第なんだぜ?
「お時間は取らせませんから」
南の動揺と困惑とを感じたらしい宮島がいつもの華やかな笑みで口元を彩る。
機転が利いて明るくていつも南を楽しませてくれる後輩。高二の主席って確かコイツじゃなかったっけ? 人望も厚いらしく各種委員会においてもよく名前を見かける。
「でも、ナミ先輩が望むんなら切敷先輩同伴でもイイよ」
気遣うような優しい、いつもの口調。そんな心遣いを受けるほど逡巡してる自分が自分でも意外だった。こんな局面、いままでだって数え切れないぐらいあったのに。自分はそこまで弱ってるんだろうか? 切敷がいなくちゃ何もできないなんて思われてたら心外。…あーそっか。切敷を保護者にするのも親友にするのも自分次第なんだ。南はこの時になってようやくその事実に思い至った。
「いーよ、行くよ」
宮島に手をつかませたまま階段を下りる。コイツ、こんな身長高かったっけ? 優しげな視線が自分よりもだいぶ上にあることに気付いて、南は宮島の身長を視線で測った。手首をつかむゴツイ掌。たぶん本気でつかまれたらこの手を振り切ることなんてできないだろう。高等部に入学してきた頃は自分と大差ない体格だったくせに。いつのまにこんな成長したんだろう。
「なんか大きくなったねェ、宮島」
「何云ってんですか、先輩」
でもそう云って浮かべられた苦笑は前と変わらず、南が知るうちの誰よりも穏やかで優しかった。つかまれてた手の力が弱くなる。切敷に別れを告げると、南は宮島に手を引かれながら校内を歩いた。
「ナミ先輩」
「何?」
「先輩の手ってすごく細いね」
そりゃオマエに比べたら細いかもしんないけどさー。でも170の身長はそう低い方でもないと自分では思っている。周りにやたらと高いヤツが多いから低く見えるだけで。たいがいの女の子は自分より低いわけだし、いままで不自由を感じたことはない。
「それは何? 俺が虚弱だとかそういうニュアンスを含ませたいの、そこに?」
「違うよ。そうじゃなくてカワイイなって思っただけ」
「ウン。確かに俺は可愛いけどね。でも虚弱ではないんでそこんとこヨロシク」
真顔で認めながらそう付け加える南に、宮島が楽しげに声をあげて笑った。先輩のそーゆうトコほんと好きです。なぜだか歌うように宮島が囁いた。好きです、ホントはずっと好きだったんですよ。誰にも渡したくない。自分だけのモノにしたいってずっと思ってました。へーえ? 告白なんて歩きながらするもんじゃないと思ってた南は宮島の言葉をほとんど聞き流してから、ややして「あれ?」と小さく呟いた。
「もしかしていまの告ってた?」
「ええ、気付いてもらえました?」
「つーかナチュラルに聞き流した」
「でも校舎裏とかじゃ先輩、もっと聞いてくれないでしょ?」
「…あ」
裏庭も体育館裏も屋上も。あまりによくあるシチュエーションでいままでに何度、そこで同じ台詞を囁かれてきたか解らない。そのたびに風と共に受け流してきた言葉。それが今日はきちんと胸の中に残ってた。肩を並べて廊下を歩きながら、日常会話の延長のように告げられた台詞、それが何度も耳奥でくりかえされる。存外、把握されているらしい自分像に南は素直に驚きを表した。尖らせた唇に乗せた感嘆符を宮島が楽しそうに眺める。
「ちょっとビックリした」
「ダテに一年見てたわけじゃないよ、先輩」
右に行けば渡り廊下、左に行けば事務局棟へと続く道。ちょうどその分岐点まできたところで宮島はようやく南の手を放した。けれど繋いだ視線を逸らすことは許されず、南は片頬を暖かい掌に包まれたまま注がれる視線を真っ直ぐに見返した。端的に見ても宮島はカッコイイと思う。すれ違う女の子の約八割は即座にあの目になってることだろう。あのショクパンマンを見つめるドキンちゃんみたいな目。ああ、でも自分の目はそうはならないんだよね。宮島は変わらず宮島にしか見えない。だから。
「先輩」
告げようとした言葉を遮るように宮島が囁いた。かすれた声に耳を澄ますと「好きです…」ともう一度、今度はさっきよりもずっと間近で告げられた。
「お願いだから簡単に答え出さないで下さいね。一日でも一時間でも一分でもイイんです。俺のことだけ考えて、それから答え出して下さい」
「宮島…」
「だからいまは何も云わないで」
いつもの微笑みを浮かべてそれだけ云うと宮島は「じゃあまた」と踵を返した。その背中が事務局棟へと消えていくのを、南は何も云えずにただ見送った。



渡り廊下を通って教科棟に踏み入る。学校中でイチバン陽のあたらない校舎。とくに準備室の並ぶ一階の廊下はいつ通ってもヒンヤリとした空気に充たされていた。
宮島の真摯な眼差しが頭から離れない。初めて見るぐらい真剣な顔つき。触れられた手の熱さがまだ手首と頬にそれぞれ残っている。けど指先は妙に痺れて冷え切っていた。
「あ…」
ポケットから出したプラスチックケースが硬い音を立て廊下に転がる。見るとかすかに指先が震えていた。手に力が入らない。しゃがんで拾ったケースをぎゅっと握り締める。
「それじゃまたきます。失礼しましたー」
不意打ちのように。突然、背後から聞き慣れた声が聞こえてきた。カラカラと準備室の扉を閉める音。ビクっと揺れた肩を見られただろうか? ううん、たぶんダイジョウブ…。努めて平静に立ち上がらせた体を、南はゆっくり廊下の先へと進めた。二つの足音が冷たい廊下に響く。ゆっくりゆっくり冷たいタイルを踏みしめながら、南は意識のほとんどが背中に集中してしまうのを疎ましく、けれど為すすべもなく感じていた。
話しかけてくるなよ。頼むから早く通り過ぎて…。
近づいてくる足音。突き当たりの掲示板にふと目を留めたフリで足を止めると南は密やかな歩みが立ち去るのを待った。けれど、ほんの少し後ろでピタリと止んだ足音。クスリ…と、空気が揺れた気がした。じっと固めた背中を嘲笑うようにまたクスリ。
「早く行けよ…ッ」
堪え切れず背中で叫びながら南はきつく両手を握り締めた。拳の中でプラスチックがぎしっとイヤな音を立てる。
「どうして?」
「いいから早く行けってば!」
「僕もその告知、見てるだけだよ?」
「…嘘つけ」
ゼッタイこの背中見て笑ってるくせに。憐れんでるくせに、蔑んでるくせに!
オマエが立ち去らないんならこっちから立ち去ってやる。再開した南の足音に重なる靴音。南が止まれば背後の歩みも止まる。
「だから、ついてくるなってば!」
「たまたま方向が一緒なだけでしょ。ねえ、どうしてそんなに怒るの?」
「ウルサイっ」
「南っていつもそうだよね。僕さ、キミに嫌われるようなことなんかしたっけ?」
シレっとした問いに涙が出そうになった。よく云うよ、アイツにあんな呼ばれ方してるクセに。
「あ、南?」
それ以上何か云われる前に、南は廊下を全力疾走すると瀬戸内の視線から無理やり逃れた。
「やれやれ、カワイイもんだよね」
それを楽しげに眺めながら、それでもどこか呆れた風情で瀬戸内はポケットから携帯を取り出すと着信履歴の一番上の番号に折り返しコールをかけた。すぐに出た相手が向こうで憮然と声を低める。
「いま廊下で南に会ったよ。…うん、なんかわりと元気そうだったけど? オマエが無理させたわりにはね」
あの見事なまでの脱兎ぶりに身体的ダメージはそれほど窺えなかった。ま、精神的ダメージは解らないけどね。またクスリと口元を笑わせながら通話を切ると、瀬戸内は「あーあ」と小さくため息をついた。



「告られたか?」
「ん、られた。俺がすごく好きなんだってさ。自分だけのモノにしたいんだ、って云ってたよ」
「へえ。有望株だとは思うけどなー」
「あ。やっぱ切敷もそう思う?」
「そりゃ頭も性格もいいヤツってのは稀少だよな、ホント」
「いまの誰かに当てこすってない?」
「疑心暗鬼は嫌われるぞ」
「…なあ」
ディスプレイに向けられたままこちらを振り向きもしない視線になぜか無性に腹が立った。
全力疾走で無意味に校内を一周してから南は切敷の待つ第四会議室へと戻った。出来上がったプリントの横で新たな仕事に取り掛かってる親友の開口イチバンがあれ。ねえ、保護者じゃなくていいよ。親友でもなくていいからサ。久しぶりにあの顔を見せて? 切敷が彼女持ちになってから三ヶ月のブランク。けどトータルキャリアでは軽く一年を超える。
つかんだタイを引き寄せて上向いた唇に噛みつく。何度か唇を入れ替えて満足したところでタイを放すと、南はペロリと唇を舐めた。ストロベリーの感慨が唇を超えて舌先にまで纏わりついてた。
「マズ」
「文句云うんならやるなよ」
切敷の指に口元を拭われながら眼鏡の奥の視線を捕まえる。
「ねえ。切敷、アヤミちゃんとはいつまで続きそう?」
「来週あたりフラレる予定」
「それ今日じゃダメかな?」
「おまえな…」
「俺、明日にはアイツと付き合うよ。そしたらもう切敷とはできないじゃん」
「ナミ?」
「…抱いてよ、切敷」
潤んで仕方ない目で見つめると、百パーセント呆れた眼差しがそれを見返した。でもその視線が裏切らないことを南は知っている。ノーパソの横に転がってた携帯でコール二回。出た相手にソッコウで別れを告げると切敷は南のシャツのボタンを外し始めた。ドアの鍵はすでに施錠済みだ。ゴムは切敷が持ち歩いてるのを知ってるし、なくても南のポケットに入っている。今日は水曜日だから。
「切敷って親バカ」
「おまえに云われたくないよ」
切敷の腕の中、三ヶ月ぶりの熱を追いながら唇を重ねる。こうして切敷に抱かれるようになってからすでに久しい。
キッカケは簡単。オトコ同士のセックスって誰とやってもあんなに感じるもんなのか、確かめたかったから。実際はそうでもないらしいことを何回目かになってようやく理解した。キモチイイのは確かだし何回でもイケるけど。でも刷り込まれた圧倒的快感とはまったくの別物。意識を根こそぎどっか持ってかれそうな陶酔。切敷とヤっててもそんなの感じたことないし。
「あ…ソコいい…」
「ココ?」
「ぅ…っ、ン」
一度イッて火の消えかけてた体に切敷の指先がまた火を点す。切敷との相性自体は悪くないと思う。少なくとも清とヤるよりは感じるから。指先一つで容易に火をつける仕草は悪くない。
けれどアイツは言葉一つでこの体に火をつけることができる。ほんの一瞬で盛らせることができるのだ。抗えない炎を操って。
「ン…ッ」
切敷の手の中に吐き出してその体の上、飛び散った快感の収束を待つ。中途半端な音量の電子音。比較的冷めてきた思考の淵、六限目終了のチャイムが聞こえた。それを合図に収めてたモノをずるりと抜いて立ち上がる。汗のしみたシャツが肌に張り付いて気持ち悪かった。あーゼンブ脱いでやればヨカッタ。失敗。
しょうがないから床に落ちてた制服にそのまま袖を通す。切敷の手がタイを結んでくれるのを無感動に眺めながら、南は会議室に設えられた時計を見上げた。一週間後、自分はどの部屋に連れ込まれてるんだろう? 宮島と付き合い始めたとしてもアイツは変わらず迎えにくるだろう。捕捉に抜かりを見せはしないだろう。
明日なんかこなければいいのに。心の底からそう思う。
そうすればあんな思い、もうしなくていいのに。
「ちょっとクラスの方見てくるワ、俺」
「ん。担任にヨロシク」
隙なく元通りになった制服で切敷が会議室を出て行く。その背中にはイロゴトのイの字も残ってなくてサスガだなと思う。あんな涼しい顔してアノヒト、さっきまでヒトのカラダ弄くり回してたんですよ? 乗せられて揺すられて。自分でもサンザン腰振ってたからこっちはもうオーバーヒート気味。一日に二人はさすがにきつかったかな…。締められたタイを片手で緩めてソファーに身を投げる。ポケットから落ちたプラスチックケースががしゃがしゃと床に転がった。
桃は好きじゃないけどピーチ味が好き。そう云うと大概のヤツは笑うんだけど、切敷とアイツだけは笑わなかったな。「ヘンなやつ」そう云った後、切敷は「むしろ贅沢な話だな」と一人ごちて、アイツは「ビョーキだな」と口元を歪ませた。パクっと開けた口から直接口内に粒ガムを流し込む。
「……あんなヤツ、大ッ嫌いだ」
ピーチ香料が噛み締めた奥歯にジワリとしみた。


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