だってパンダは悪くない



 俺がパンダグッズを集めている、という話をどこかで聞き及んだらしい店長が。
「和泉くん、コレあげるよ」
 バイト上がりにいきなり大きな包み紙を渡してくれた。

「パンダだから」
「えっ、パンダ?!」

 っていうか店長からパンダもらってる俺って何? とか頭の隅で思いつつ。
「アリガトウございます!!」
 視界ではシッカリと伸びた俺の両腕が「大中」と書かれた赤い包み紙をがっしりと思い切り鷲掴みにしていた。既婚店長が俺に色目使ってくるとも思えないからこれはもらっても大丈夫、安心安心。つーかアノヒト、自分の娘と同列っぽく考えてる節あるよね、俺のこと。別にいーけど。

 事務所で着替えてからバリバリと包装紙を破いてみると中からは確かにパンダが出てきた。パンダをモチーフにした枕のような代物。両手でギュッとするのにちょうど良さそうな大きさだ。試しにギュッと胸に押し付けてみると思った以上に抱き心地がいい。
 あ、なんか…すごくイイかも…この感じ…。
 抱き締めついでパンダにそっと頬を摺り寄せたところで。

「…何やってんの?」

 背後から冷たい声が浴びせられた。
 はっ、しまった! アイツも今日は22時上がりなんだった…!!
 これは違うぞ、別にパンダをおまえに見立ててギュッとしてたわけじゃないんだぞ!
 慌てて弁解しようとした瞬間。
「何、そんなに好きなわけ?」
 松下がフッと唇を歪めたのが見えて…思わず頭に血が上ってしまった。


「オマエのことなんか好きでも何でもねーよッ!」


 投げつけたパンダを片手で受け止めた松下が「アホか…」さらに口元を歪めて笑う。
「誰も俺のコトなんか云ってねーだろ」

 うぐぁーーーー!! しまった!!!
 すごくすごくバカなことを云ってしまった!!

 後悔先に立たず。
 覆水盆にかえらず。
 いやそんなコトワザ思い出してる場合じゃないんだから、俺…!!

 開いた口を塞ぐのも忘れてた俺に「ほらよ」パンダをぐっと押し付けて渡すと、松下は何事もなかったようにノラリクラリと事務所を出て行った。
 ウワー、もうほんとアイツ大っ嫌い…。
 そう思いつつ、腕の中に帰ってきたパンダをもう一度ギュッと抱き締めると。
「…………」
 妙に愛しくて。

 俺はパンダの鼻の頭にちゅっと一度だけキスを落とした。


end

大中にはコンビニやゲーセン以上に松下がたくさんいます。そんな話。このパンダ枕、うちにもありますが友人にも半ば無理やり押し付けました…。いまでも街中でパンダを見かけると「あ、松下」と思ってしまいます。

(040703 / 旧雑記帳より)


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