nightmare #1



 初詣には皆で行こう、なんて店長が云い出すから。


「よォ」
 俺の顔を見るなり松下は、ほんのりイヤそうに片目を眇めた。
 それからヒョイと肩をすくめて。
「来なくてもいいのに」
「そりゃ、お互いサマだろ?」
 紺色のピーコートに水色のマフラーを巻いて。寒くないのか、ボタンは全部開けっ放しだ。コートの下には薄っぺらい綿のセーターを着ている。
 年が変わったとはいえ、松下は相変わらず松下のようだった。
「ほら、行くってサ」
 どうやら俺が一番最後だったらしく、券売機の前にダラダラと集まっていた集団が改札の方へと流れていく。
 これで全員かァ? と確認する店長の大声が先頭の方から聞こえてきた。まったく。わざわざ駅前店にヘルプを頼んでまで行くようなものか、初詣なんて。
 誰もが思っていながら、それを口にする者は一人もいない。まあ電車代も店長持ちだしね。でも、こんな駅前で待ち合わせなんかしなくてもいいんじゃないの? ゾロゾロとみっともないったらありゃしない。
「バーカ。現地集合じゃ誰もこねーだろが」
「あ、そっか」
「そのへんは自分でも解ってんだろ、店長も」
 松下に云われてようやく合点がいった。
 そりゃそうだ。そんなんだったら、確かにタルくてやってらんないわナ。つーか、行くわけない。俺だって話には聞いてたけど、朝っぱらから「今日だからね」って店長に電話もらうまではその企画の存在自体、すっかり忘れ果ててたし。そうか。脱落者を出さない為の駅前集合だったのか。
「つーか、おまえがこーゆうの来るとは思わんかったワ」
「そう?」
 それは先に朝の電話で確認してたからだ。松下が来るって知らなかったら、絶対、参加なんてしてなかったと思う。
「そっちこそ、なんでいるの?」
「んなの、俺の勝手じゃん」
 この言い草がムカツク。
 だいたい、いつもなら真っ先に下らねーって切り捨てるようなヤツが、なんでここにいるんだよ。昼間のバイトさんとかと談笑しながら和やかに電車に揺られてるなんて。
 不気味すぎる光景。
 まあ元から何考えてるのか解らないヤツだから、考えるだけ無駄なのかも。
 もしくは何か、魂胆があるとか。
「あっ」
 電車が揺れて、何にもつかまってなかった俺はその反動で扉に激突しそうになった。
「バカか、おまえは」
 寸前で松下の手が俺の首根っこを捕まえる。
 くっと首がしまる感覚。
 それが俺にあるコトを思い出させた。



「イイコにしてたら、ご褒美があるよ」
 目の前に差し出された皿には、ミルクがなみなみ注がれている。
 首には赤い皮の首輪。それほどキツク締められてはいないが、松下がリードを引っ張るたびにそれが喉元をくっと締めつけてくる。少し息苦しい。
「おいで」
 松下がイスに腰掛けて云う。
 俺はそこまで四つん這いで歩いていった。立つコトは禁止されている。むろん、喋るコトも。開いた脚の間に俺が収まると、松下が促すようにアゴをしゃくった。
「ほら。いつものをシてごらん」
 上目遣いに了解を得て、俺は手を使い松下のズボンの前を寛げた。
 中から半分ほど勃ち上がったモノを引っ張り出す。
 スン、と匂いを嗅ぐと嗅ぎなれた松下の匂いがした。カタチを確かめるように両手で扱いて、先端を柔らかく口に含む。クチュクチュと吸いながら舌をめぐらせて、裏の筋のところをチロチロと刺激する。ソコの硬度がしだいに増していった。
 いつもと同じ。
 松下は興奮をあまり表に出さない。苦しげに奉仕する俺の表情を、涼しい顔で上から眺めている。ココはこんなにも反りかえって、もう濃い液を滲ませているというのに。
 舌に染みる味。
 じわじわと浮いてくる液をすくい取りながら、俺は片手で下の膨らみを握り、そっとソレを揉み合わせるようにした。
 少しずつ松下の息が乱れ始める。先端を吸引しながら、血管の浮いた茎を扱き上げ、くるくると二つの膨らみを指先で弄ぶ。ひくん、と先端が震えた。
 もうそろそろ、イクのだろうか?
 だが松下はなかなか達さない。また涼しい顔をして俺を見つめている。
 見つめられながら。
 俺は松下の視線を一人占めにしているコトに、密やかな喜びを感じていた。
 ずっと、オレだけを見ていて。
 首輪を嵌められて、しっぽ代わりにとアソコにバイブを咥え込まされて。じわじわと責められる喜びに震え、もうヨダレを垂らしている俺のソコも。

 もう、たまらない。
 こんなに恥ずかしいオレを見て。
 キツく拘束して。支配して。
 蔑んでもいいから、愛してほしい…。
 俺だけを見ていて。

「アレを持っておいで」
 指示通りミルクの入った皿を持っていくと、すぐそばのもう一つのイスにそれを乗せるよう命令された。
 もういつ爆発してもおかしくないくらいに大きくなったソコ。ぴくぴくと痙攣する様が愛らしくて、俺は思わずソレにむしゃぶりついた。舌で包むように愛撫して、強く吸いながら根元から先端までを唇で扱き上げる。クリクリと下の膨らみを刺激しながら。
 くっ、と松下が小さく声を上げた。
「口から出して」
 云われるまま唇からベトベトになった欲望を解放すると、狙いを定めて松下が射精した。ピシャッ、ピシャッと熱い迸りが顔を濡らしていく。
 恍惚に包まれていると、松下がまた皿を持ってくるようにと静かに命じた。自身の根元を片手で握り込んで。
 指示通り、皿を掲げるようにすると松下が残っていた分をそこに吐き出した。
 ピュピュッと、白いミルクに白濁が溶けていく。
 全部出し終えると、松下はそっと俺の頭を撫でた。
「イイコにしてたナ」
 皿の中で、ミルクが少しとろみを帯びたように見える。
「ほら。ご褒美だよ」
 俺から受け取った皿をテーブルに置いて、松下がその前のイスを指し示した。
 手を使うコトは許されず、俺はその皿に顔を伏せる。
 そして犬のようにピチャピチャと舌を鳴らして、そのミルクをじっくり味わう。
 あ、松下の味がする…。



「なに、いきなり赤くなってンの?」
「…なんでもねーよ」
 支えてた松下の腕から逃れ、俺は逆側の手すりにあわててつかまった。
 ひんやりとしたその感触が、火照った体を冷ましてくれる。

 あれが俺の見た初夢なのだ。
 なんで? なんで?
 起きた時、パニックに陥ったのは云うまでもない。
 リアルな感触と、リアルな味わい。
 しかも、ギンギンに反りかえった自分の欲望…。
 思い出すと今でもあの興奮と、充足感とが胸のうちに渦巻いてしまう。
 いきなりそんな夢を思い出した所為で、俺は松下の顔がまともに見られなくなってしまった。そしてついに目的の駅まで。
 俺は一度も顔を上げるコトができなかった。


 こんな初夢、とてもじゃないけど人には云えない…。


end


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