sparkle
一瞬で散る閃光のように
この思いもどこかに消え去ってしまえばいいのに
散らない火種をじりじりと
僕はいつまで抱えてればいいんだろう?
もうじき日付も変わろうかという時刻になって、携帯に届いた一通のメール。
近くの公園まで来てるから出て来いよ、というそれを一度はシカトしようと決めたはずなのに。
行くか、行かないか。こういう二者択一の答えを僕はいつも即答で間違えてる気がしたから。
今日は裏をかいたつもりで、携帯が鳴ってすぐに家を出てみた。コンビニで買った花火の袋を片手、真夜中の公園に佇んでる深草の姿は案外マヌケに見えて、ちょっとだけ笑えたけど。
でもいまこうして二人肩を並べていても、自分が選んだ答えが正解だったのかどうか。
その真相は、未だ解らないでいる。
「ほら、深草」
「何」
「世界の破滅する音」
バケツの水につけた花火がギュッ…と最後の断末魔をあげる。
色彩と明滅の蹂躙から逃れて、本来の明度を取り戻した暗闇に名残りの煙幕がゆっくりと漂った。
「どうせ何かの受け売りだろ、ソレ」
「…ちぇ」
また新たに灯された火が、パチパチと五色の炎を地面に滴らせる。
その様を眺めながら、僕はなぜか炎の向こうに潮騒の賑わいを聞いていた。
紙と火薬とが勢いよく燃えていく音。いつだったか母方の田舎で聞いた海鳴りの音に似ている気がした。
ゴゴー…と鳴るこの音は確か翌日の雨を予兆しているんではなかったろうか? 埒もない思索に耽っていた僕の手首を、ギャップの半袖シャツから伸びた腕が素早く捕らえて横にスライドさせた。
「ちょっと…」
また一つ世界が破滅する音。
「何すんだよ」
約束されていた命が尽きるよりも前に、バケツの海で無残に寿命を縮められた花火が黒く空しい屍骸を水面に浮かび上がらせる。耳に残る断末魔の声。海鳴りの余韻が鼓膜を僅かにまだ震動させていた。
「終わりをじっと待つなんて性分じゃなくてね」
夜気に冷やされた夏草の匂いに混じって、鼻をつく焦げた火薬の匂い。
それからなぜか、ウッスラと血の匂いがするような気がした。
自分と深草とを繋ぐ点はいつも血まみれだったから。
初めてコイツを意識した時も、初めてコイツに抱かれた時も。辺りに充満していたのは真っ赤な血潮の噎せかえるような生々しさで。
終わりを望む? このカンケイの?
そんな自分勝手な言い分がいまさら通るとでも思ってる?
好きなのか、と問われればノー。
嫌いなのか、と問われればたぶん、イエス。
そう、嫌いだから。憎んでるから。
だからおまえを許すわけにいかないんだよ。
いまさら心変わりなんて、尚更許すわけにいかない。
「おまえなんか一生、僕に縛られてりゃいいんだよ」
まだ薄く漂う煙幕の向こう、よくは見えない表情がニヤリと笑ったような気がした。
掴まれたままだった腕に力がこめられて、一瞬そっちに逃した意識を深草の足がキレイにすくい上げる。足払いでよろけた体を予定調和的、腕の中に閉じ込められた。
「世界の終わりに音があるんなら、俺はおまえの声がいい」
「嫌いだよ、おまえなんか」
「知ってるよ」
「ダイッキライだ」
「ならもっと本気で抵抗しろよ」
Tシャツの裾から入り込んだ指が弱い所にじんわり爪を立ててくる。その刺激に抜けかけた腰を支えるように、深草の指が普段自分でも見ないような、触れないような箇所に思い切り食い込まされる。
「うぁ…っ」
「なあ、おまえの態度次第で、俺はいくらでも優しくなれるんだぜ?」
「あっ……ん…ッ」
「優しくしてほしけりゃもっと可愛くなれよ」
「ダ、レが…っ」
どんなにカラダを征服されたってココロまでは絶対に屈さない。
あの日の決意を全うするために。そう、だから。
嫌いだけど嫌われたくない。好きじゃないけど好きでいて欲しい。
いつまでも思い続けてて。他の人になんて目もくれずいつまでも欲しがり続けてほしい。
「…やめろ、よ」
掴んだ胸座を全力で押し退けて仕掛けられたキスを避ける。台詞を真に受けた腕が緩んだ隙を逃さず。
今度は爪先立ちでペロリと自分から酷薄な唇を舐めてやった。
虚をつかれたように崩れた拘束を逃れて一歩踏み出す。
「ザマーミロ」
背中を見せるのは追いかけてほしいから。エサを撒くのは食いついてほしいから。
諦めさせてなんかやんないよ。どこまでも僕を追ってくればいい。
二者択一で選んだ、あの日の答え。その真相が解る日がいつかやってくるんだろうか。
その日まで僕はきっとずっと。この火種を胸に燃やし続けるんだろう。
散らない花火をいつまでも。
end
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