Feelings like strawberry



 クス…。
 口元に浮かべた笑みがほんの少しだけ空気を揺るがす。

「何を笑う?」
 少し節の目立つ指が前髪をスルリとかき上げる。されるがまま額をなぞられながら、顳を滑り頬を撫ぜる掌の熱さをじっと肌の表面で感じる。こんな風に誰かに触れられるのは毎夜のコトで。同じように触れられて同じように犯されて。それでも同じように傷つかないのは、やっぱりこの手が違う意味合いを持つからだろうか。

「最初の頃を思い出してたんだよ」
「あー…、サンザン引っかいてくれたっけか」
「それでも全然めげなかったくせに」
「何、めげた方がヨカッタ?」
「イイカゲン心にもないこと云うのやめたら?」
「よく云うぜ、そっちが云わせてるくせに」
「云いたいのはそっちの方でしょ」
「まったくこれじゃ堂々巡りだな。なら、イタミワケってところでどうだ?」
「……じゃあ、今日はそれで手を打とうかな」

 クスクス…。
 唇と唇の間、揺れた空気。それはすぐに甘いうねりに変わった。
 キスに意味なんてないと思ってたのに。
 蕩けるような甘い酩酊。


 愛されたい、好かれたい。
 嫌われたくない、疎まれたくない。
 そんなのただのワガママだって思ってたから。
 月を欲しがって泣くコドモとは違うからって。目を逸らして線引きしてた。
 でもそうじゃないって。
 教えてくれたのがこの腕だから。


 だからきっとこんなにも温かくて、優しくて、泣きたい気持ちになるんだろう。
 この腕の中にいるから。
 この腕の中にいれば。
 もう大丈夫だって思えるから。


「なあ……明日、早いんじゃないのか」
「あれ? イイの…ここでやめても…」
「や、身体的にはすこぶるよくねーけど…」
「もうこんなだもんね…」
「あのな、俺は何度でもオマエを抱けるけど、明日ツライのはそっちの方だろ?」
「でもココでやめたりしたら明日死んだ時、後悔しない?」


      瞳に書いたココロの台詞を、寸分違わず受け取れる瞳。


「それは片時も離れるなってコトかな」
「願わくばそうありたいって話」


 繰り返すキスはストロベリー。
 絡めた指から、合わせた唇から、繋いだ体から溶けてしまうような。
 幸福な錯覚と、めくるめく快感。
 きりのない夢のような。
 なんて甘い。


 ストロベリー・フィールズ。


end


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